大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)880号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人土屋芳雄の上告理由について。

論旨一は、原判決の認容した第一審判決は、その主文並びに理由においてその範囲が確定し得ないものであると主張する。

よつて記録を調べてみると、第一審判決は主文第一項において「別紙第一目録記載の山林及び同地上に生立する杉立木二十本は、原告の所有であることを確認する」と表示し、判決の末尾に添付された第一目録には「福島県伊達郡石戸村大字石田字立石二十七番の十、山林六反七畝二十七歩のうち、東南端の地域、三畝二十三歩(但し、別紙添付図面の赤斜線の部分)及び右地域内に生立する杉立木二十本」と記載され、添付の図面には土地の図形らしいものが画かれ、そのうちの山道と表示した点線に副つた区画を赤斜線で示しているにすぎず、また第一審判決理由中にも「別紙第一目録記載の本件係争地域」と記載されているだけで、それ以上の説明はない。そして第二審判決は、第一審判決の理由を引用した上、「原判決は本件係争地域が被控訴人所有の字立岩(原判決添付第一目録には字立石と記載あるも立岩の誤記なることは明かであるからこれを訂正する)二十七番の十であると判断したのであつて、このことは原判決主文を理由と対照してみるときは実地に即して明瞭に表示されている」と判示し、控訴代理人が第二審で主張した、本件土地の境界については当事者間に争があり、第一審判決主文の表示では右の点が不明であるとの論旨を排斥して控訴を棄却したものであることが認められる。

そもそも、土地所有権の帰属に争のある場合、土地所有者がその所有権確認の訴を提起するのは、その訴にもとずく確定判決を得て、その既判力により当事者間の争を解決し、ひいては将来の紛争をも防止しようとするものであることはいうまでもない。そして、右既判力の客観的範囲が判決主文に包含されたものに限ることは、民訴一九九条一項により明らかなところであるから、もし主文の範囲が特定しないときは、既判力の及ぶ客観的範囲が不明瞭となり、当事者間の紛争を解決防止しようとした目的は達し得られないこととなるから、かかる不明確な主文を含む判決は確定しても既判力を生ずるに由ないものというべきである。されば、単に土地所有権の帰属に争があるだけでその係争地の範囲について当事者間に争のない場合は格別、かような場合に当らない本件判決においては、被上告人の所有に属する旨宣言された係争山林の範囲が、その主文と判決理由とを対照することによつて、現地のいかなる地域に当るかが明確であることを要することはいうまでもない。しかるに、本件第一審判決及び添付の目録、図面を精査しても、右係争山林の地域が、北東側において北西から南東の方向に続く山道に境界を接することがわずかに窺えるだけで、右境界についても、右山道上のいかなる点を基点としたのかがすでに不明であり、その山道に接する部分の長さ、方向等はすこしも表示されていないので、現地との関係が確認できず、山道に接する部分についてだけでもその境界が明らかにされたものということはできない。係争山林地域の山道に接しないその他の境界に至つては、基点、間尺、方位等その特定に資すべきなんらの表示もなされていないため、全くこれを知ることができないのである。それゆえ本件においては、結局第一審判決の主文第一項と理由とによつては、係争山林全体の範囲を特定するに由ないものと断ぜざるを得ない。してみれば、原判決の肯認した第一審判決主文第一項は、被上告人の所有に属する旨宣言した山林の範囲を明確に示したものとは認めがたく、従つてまた、その地上に生立するものと表示された杉立木二十本についてもその特定を欠くこととなり、主文不明確の違法を免れないのである。右判決主文第二項は、右山林に対する関係において上告人に不作為を命じたものであり、その山林の範囲にして特定されていない以上、後日その命令の違反の有無が問題となり、右不作為義務の強制執行の手段をとる必要を生じた場合でも、命令違反の有無を確認するに由ないものというべく、結局同項にもまた主文不明確の違法あることに帰するのである。さらに、同主文第三項及び第四項については、添付の別紙第二目録掲記の杉材が仮処分の執行として執行吏の保管に移され、その換価により換価金四万円に変形したことは明らかであるけれども、前記係争山林の範囲にして特定を欠く以上、右の杉材がいずれも右山林の地上に生立していたという理由のみによつては、すくなくとも右杉材全部の所有権、従つてその換価金四万円全額の引渡請求権が被上告人に属するものとは直ちに断じ得ないから、結局右の部分については判決の理由に不備の違法があるものというべきである。それゆえ、右第一審判決と同一の理由に基きその全部を正当として維持した原判決は、以上の諸点に関し全部違法として破棄を免れない。

(なお、所論二については、訴状答弁書等に徴し本件第一項の請求がまさに係争山林の所有権の帰属の確認を求める趣旨であることが明らかであり、原判決は右訴旨に副う判断を下したものにほかならないから、この点の所論は理由がない。)

よつて、民訴四〇七条により裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河地又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例